【特別企画】名馬の蹄跡 ライフ・イズ・ビューティフル号(那須トレーニングファーム)前編

国内障害馬術競技会

意思の強さと知性の高さ

2011年7月、龍馬に衝動買いされたブチ毛の馬が那須トレーニングファームへ到着し、「ライフ・イズ・ビューティフル」という新しい馬名が付けられた。龍馬が一番好きな映画のタイトルであり、「日本で幸せな馬生を送ってほしい」という願いが込められていた。さらに、毛色にちなんだ「ブチ君」というニックネームも決まった。余談だが、馬名にはもう一つ候補があった。その名も「下剋上(げこくじょう)」。「期待されていなかった馬が日本で成り上がっていけるように」と願っての馬名だったが、妻の反対であえなく却下されている。

馬名も決まり、那須トレーニングファームでの新たな暮らしが始まったライフ・イズ・ビューティフル号は、障害馬術競技会出場に向けて調教を積んでいく。日々のトレーニングや世話を通して見えてきたのは、人を和ませる愛らしいルックスやニックネームの印象に反した、意思の強さと知性の高さだった。

「今まで乗ってきた馬とはまったく違って、人間みたいな馬だなって思いました。自分の考えをしっかり持っていて、人間が話していることもちゃんと理解している。初めて乗ったときは、進みたい方向へ進むことすらできず、ブチ君に試されているように感じました。頑として障害を飛ばない日もありましたが、それも障害を飛ぶのが嫌というわけではなく、自分で考え、自分のペースでコンディションを調整していたのだと思います」(思乃)

「とても賢くて我の強い馬なので、力で無理やり動かそうとしても何も生み出さない。馬の気分を害することなく、気持ちよく飛んでもらって、一緒に楽しくトレーニングしていくことが何より重要だと考えました。そのため、障害を上手に飛べたときにはたくさん褒めてあげて、障害を飛べば多くの人に称賛されるんだということを繰り返し教えていきました」(龍馬)

那須トレーニングファームに到着

こうして、2011年11月にライフ・イズ・ビューティフル号は競技会デビューの日を迎える。舞台は那須トレーニングファームで開催されるオールレディース&シニアクラシック(日本馬術連盟公認1*競技会)。中障害A・B・Cの3クラス、全8競技に出場したライフ・イズ・ビューティフル号は、龍馬が騎乗し、中障害Bクラスの標準障害飛越競技で優勝。上々のデビューを飾った。その後、「女性に夢を与えるような存在になってほしい」という龍馬の思いから、思乃がメインで騎乗するようになる。

全日本初出場で準優勝

翌2012年、ライフ・イズ・ビューティフル号は思乃とのコンビで公認競技出場を重ね、11月には国内最高峰の全日本障害馬術大会 PartⅠに出場。35人馬がエントリーした中障害Aクラスにおいて、予選初日のスピード&ハンディネス競技で19位、2日目の標準障害飛越競技で6位に入り、最終日の決勝へ駒を進める。そして、決勝でも、第1走行とジャンプ・オフ(優勝決定戦)をともにクリアラウンド(減点0で走行を終えること)する素晴らしいパフォーマンスを披露し、全日本初出場で2位という好成績を収めた。

「他の馬で全日本に出場した経験はありましたが、良い成績を残せたことがなかったので、信じられない気持ちでした。ジャンプ・オフに残れたことも奇跡だと思っていたくらいです。龍馬さんならともかく、私が乗って初めての全日本でいきなり2位になるなんて、ブチ君は本当にすごい馬だなと思いました」(思乃)

「予想外の好成績で本当に驚きました。いずれは上のクラスで活躍してくれるだろうと思ってはいたものの、初めての全日本であそこまでの成績を残すとは。ビギナーズラックというか、少しうまくいきすぎたなと感じる部分もありましたが、ブチ君の能力の高さや思乃との相性の良さをあらためて確認することができました」(龍馬)

初めての全日本は、ライフ・イズ・ビューティフル号にとって、今後のさらなる活躍に向けて期待がふくらむ大会となった。しかし、ことはそう簡単には進まなかった。