【特別企画】名馬の蹄跡 ライフ・イズ・ビューティフル号(那須トレーニングファーム)後編

国内障害馬術競技会

[名馬の蹄跡 ライフ・イズ・ビューティフル号(那須トレーニングファーム)後編]

国内外の障害馬術競技会で、「記録」と「記憶」に残る活躍をした「名馬」の歩みを振り返る特別企画『名馬の蹄跡(ていせき)』。第1回は、2018年の全日本障害飛越選手権を制し、日本代表として、2019年のFEIジャンピング・ワールドカップ・ファイナルに出場したライフ・イズ・ビューティフル号(那須トレーニングファーム)。スウェーデンで生まれたブチ毛の馬が、いかにして日本でチャンピオンホースになり、世界最高峰の舞台に立つまでに至ったのか。その道のりを関係者の声を交えながら綴っていく。

ワールドカップ・ファイナル

龍馬も過去3度の出場経験があるFEIジャンピング・ワールドカップ・ファイナルは、オリンピック、世界選手権と並ぶ、馬術競技の超ビッグイベント。インドア競技会では、間違いなく世界最高レベルの一戦であり、大会賞金総額は200万ユーロ(約2億7千万円)を超える。出場選手も、当時の世界ランク1位で2012ロンドン五輪個人金メダリストのスティーヴ・ゲルダ(スイス)、同ランク3位でFEIヨーロッパ選手権2017個人金メダリストのペダー・フレデリクソン(スウェーデン)、9位で前回チャンピオンのビージー・マッデン(アメリカ)など、世界屈指のトップライダーが集結していた。

2019年の開催地はスウェーデンのヨーテボリ。ライフ・イズ・ビューティフル号の生まれ故郷だ。ブチ毛という珍しい毛色、過去に馬車競技に出場していたという経歴、はるか遠い日本で障害馬術競技のチャンピオンホースになり、スウェーデンに凱旋するというドラマ性の高さから、ライフ・イズ・ビューティフル号のファイナル参戦は現地でも注目を集め、国際馬術連盟(FEI)の公式サイトでも大きく取り上げられた。

思乃とライフ・イズ・ビューティフル号は、龍馬とブルース・グーディンが立てた遠征計画に沿って、2019年1月にスウェーデンへと渡った。現地入りしてからは、ほぼ馬に付きっ切りで入念なトレーニングと馬体のケアに励み、3月には隣国ノルウェーで開催された国際大会とスウェーデンで開催された国内大会に出場。本番までに少しでもインドア競技の経験値を高めようと、実戦経験を積んだ。

「日本では、インドア競技会はごくわずかしかないため、思乃もブチ君もほとんどインドア競技の経験がありませんでした。インドアはアウトドアよりも高い技術が要求されます。インドアの経験が少ない中で、インドア最高峰のワールドカップ・ファイナルに出場するのは、相当困難なチャレンジです。そのため、少しでも良い状態で大会へ臨めるように、ブルースの協力を得ながら綿密なスケジュールを立て、装蹄師も日本から派遣し、万全の体制を作りました」(龍馬)

「スウェーデンに着いてからも、ブチ君はいつもと変わらず、ナーバスになるようなことはまったくありませんでした。自分の生まれ故郷だからですかね(笑)。インドアへの対応についても、ブルースがインドアの練習施設に連れていってくれて、良いトレーニングができました。初めて出場した海外の競技会は雰囲気が良くてとても楽しかったですし、ブチ君もどんどん調子が良くなっていったので、『これなら頑張れる!』という手応えを感じていました」(思乃)

そして、迎えた2019年4月4日、FEIジャンピング・ワールドカップ・ファイナル大会初日。ライフ・イズ・ビューティフル号はファイナルⅠ(スピード&ハンディネス競技/バーの高さ160cm)に出場した。

インドア練習場でのトレーニング

万雷の拍手と大歓声

客席と距離が近いインドアアリーナ、派手な舞台演出、満員に膨れ上がった観客からの大歓声、居並ぶ世界のトップライダー、トップホースたち。雰囲気に呑まれた思乃の緊張はピークに達していた。待機馬場でも、「他の選手や馬の邪魔になったらどうしよう…」と心配でたまらず、隅っこのほうで準備運動を行った。しかし、まったく動じる様子のないライフ・イズ・ビューティフル号を見て、少しだけ緊張が和らいだという。

「本当に何もかもすごすぎて、私は緊張しっぱなしだったのですが、ブチ君はいつも通り堂々としていました。むしろ、こういう雰囲気が好きだし、歓声を受けるのも嬉しいようで、怯むどころかやる気満々(笑)。だから、ブチ君が頑張りすぎないようにしなきゃと思って、落ち着いて自分たちのリズムを守ることに集中しました。スピード&ハンディネス競技でしたが、タイムもあまり気にせず、『とにかくゴールできればいいや』と開き直ることができたんです」(思乃)

出場33人馬中、26番目にスタートを切ったライフ・イズ・ビューティフル号は、「イチ・ニー・サンッ ハイッ!!」という思乃の掛け声にあわせて障害を飛越。3落下のペナルティタイム9秒が加算された78.13秒で完走し、翌日のファイナルⅡ進出を決めた。ゴールした瞬間、スタンドからは万雷の拍手と大歓声が降り注ぎ、その大きさに思乃は驚きを隠せなかった。